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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)1642号 判決

原告

阿部利春

ほか一名

被告

前川金属工業株式会社

主文

一、被告は、原告阿部利春に対し金九万九、九九五円、原告株式会社藤田組に対し金一一万三、四七九円と、右各金員に対する昭和四四年四月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うこと。

一、原告らその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告の各負担とする。

一、この判決の一項は仮りに執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの申立

被告は、原告阿部利春に対し金四二万三、三二〇円、原告株式会社藤田組(以下単に原告会社という)に対し金二八万〇、二三〇円と、右各金員に対する昭和四四年四月二六日(本訴状送達の日の翌日)から完済に至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払うこと

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、傷害、物損交通事故の発生

とき 昭和四三年七月三〇日午後二時三〇分頃

ところ 大阪市東淀川区塚本町四丁目二の七交差点

事故車 普通乗用自動車(大阪五ひ五七七一号)

右運転者 訴外松浦紀海(進行方向南から北)

被害車 軽四輪貨物自動車(六大阪せ八五七七号)

右運転者 原告阿部利春(進行方向東から西)

事故態様 南北路と直角に交わる東西路との交差点で、西進中の被害車左側面に事故車が衝突し、被害車は西北方にはねとばされて東西路北側端の電柱に激突した。

二、帰責事由

被告は事故車を所有し、前記運転者松浦を従業員として雇用し、同人において、その業務の執行中本件事故を惹起したものである。

三、損害のてん補

原告阿部は、本件事故による損害につき、訴外東京海上保険株式会社から二八万三、三三〇円の支払いを受けた。

第三争点

(原告らの主張)

一、事故車運転者松浦の過失内容

訴外松浦は、自動車運転者としての前方注視義務を怠り、前記交差点へ被害車が先に進入し事故車に対して優先権を有しているのにこれを無視し、右交差点の手前で徐行ないし一時停止すべきところこれを怠り、しかもブレーキの操作を誤つた過失により、本件事故を惹起したものである。

二、原告らの損害

(一) 原告阿部の損害

同原告は、本件事故により頭部外傷Ⅰ型、左顔面下頸部挫創、胸部胸骨(左)骨折、両側膝関節挫創の傷害を受け、直ちに救急車で北野病院へ運ばれて応急処置を受けたが、同病院が満床であつたため東淀川病院へ搬送され、同院に一カ月間入院して顔面縫合十針をはじめとする諸治療を受けた。退院後も二カ月間通院治療を続けたが、未だに、歩行の際左膝に痛みを覚え、時々胸部(骨折部分)に痛みを感じ、顔面には傷痕が残つている。

損害額は左のとおりである。

1 療養費 二四万六、六五〇円

内訳 (1)北野病院診療費 一万〇、四四〇円

(2)東淀川病院診療費 一九万六、二九〇円

(3)子安病院脳波検査初診料 二〇〇円

(4)同病院通院費 一二〇円

(5)東淀川病院入院中付添費三万三、〇〇〇円

(但し、原告阿部の妻紀世美の付添三三日分)

(6)同病院入院雑費 六、六〇〇円

(但し、入院中一日二〇〇円として計算)

2 慰藉料 四〇万円

3 弁護士費用 六万円

4 差引請求額(第二の三の金額を控除した残額)

四二万三、三二〇円

(二) 原告会社の損害

1 原告阿部に支払つた給与額相当金 八万五、六八〇円

原告会社は、原告阿部の雇用主であるが、同原告が本件事故のため昭和四三年七月三一日から同年九月八日まで四〇日間欠勤した間の給料合計八万五、六八〇円を同原告に支払つた。

2 物損 一四万四、五五〇円

(1) 被害車修繕費 一三万九、六〇〇円

(2) 右鑑定料 四、九五〇円

3 弁護士費用 五万円

4 請求合計額 二八万〇、二三〇円

三、本訴請求

よつて、原告阿部は右四二万三、三二〇円、原告会社は右二八万〇、二三〇円と、右各金員に対する申立(請求の趣旨)記載のとおりの民法所定の割合による遅延損害金の支払いを、被告に対して請求する。

(被告の主張)

一、過失相殺の抗弁

本件は、交差点でのいわゆる出合頭の事故であつて、原告阿部にも五割の過失があるから、損害額の算定にはこれが斟酌されるべきである。

第四証拠関係〔略〕

第五争点に対する判断

一、原告阿部と訴外松浦の過失について

〔証拠略〕を総合すると、本件事故の状況は左のとおりであつたものと認められる。

1  現場の状況

市街地を東西にはしる幅員五・五メートルの舗装道路と、南北にはしる幅員三・六メートルの舗装道路(いずれも歩車道の区別はない)との信号機の設置されていない交差点で、その南東隅には高さ一・八五メートルの板塀があり、その他の隅にはいずれも人家があつて、左右道路に対する見透しは相互に極端に悪い所で、制限速度四〇キロメートル毎時の規制がなされており、交通量は東西道路が三分間に七台、南北道路が三分間に一台の割合であり、事故当時は曇天で、路面は乾燥(平坦)していた。

2  事故車の状況

事故車(三菱コルト一〇〇〇、昭和四二年式)運転者松浦は南北路を北に向けて毎時約三〇キロメートルの速度で進行して右交差点にさしかかり、その南側端から約四メートルの地点に至つて警音器を二回吹鳴し、そのまま進行して交差点内に進入しようとしたとき、右斜め約二メートルの東西路上を西進中の被害車を発見し、とつさに急制動の措置をとつたが、及ばず、約一・五メートル北進してその前部を西進中の被害車の左側部に衝突させ、その場(交差点の中央附近)に停止した。

3  被害車の状況

被害車(軽四輪貨物自動車)運転者原告阿部利春は東西路の中央よりやや南側寄りを西に向けて毎時三〇~四〇キロメートルの速度で進行し右交差点に差しかかつたが、左方道路から北進して来る車両はあるまいと考えて、そのまま交差点に進入しようとしたとき、北進中の事故車を至近の地点に発見し、その瞬間交差点中央附近で自車の左側部に事故車の前部が衝突した衝撃により、自車を右斜めに進行させて、該交差点北西隅から二メートル余り西寄りにある電柱にその前部を激突させて停止した。

右認定の状況からすると、事故車運転者松浦において交通整理の行われていない且つ見透しの悪い交差点で、交通の安全を期するうえから徐行をなすべき注意義務があるのにこれを怠つた過失(道路交通法四二条)があつたことは明らかである。又、被害車運転者原告阿部においても、右同様の状況にある交差点に進入するに際し、徐行義務を怠つた過失の存すること明瞭である。しかして、双方の過失の度合は、いずれの車両が優先権を有していたともなし難い状況にあつたものであり(最高裁判所昭和四三年七月一六日第三小法廷判決、同昭和四三年一一月一五日第二小法廷判決、同昭和四五年一月二七日第三小法廷判決参照)、他にそのいずれかの過失をより重大なものとすべき事情も認め難いから、五対五の割合の関係にあるものと見るのが至当である。

されば、被告は、本件事故による原告阿部の損害に対しては、自賠法三条により、原告会社の損害に対しては、民法七一五条によりこれを賠償すべき義務がある。

二、原告らの損害について

(一)、原告阿部の損害

〔証拠略〕を総合すると、同原告がその主張のとおりの受傷ならびに治療等を受け、その主張のとおりの療養費二四万六、六五〇円を要したことが認められる。ところで同原告には前記割合の過失があるから、被告に賠償を請求し得るものとして、その二分の一を過失相殺により控除するのが相当である。結局一二万三、三二五円が、療養費としての損害である。

同原告が本件受傷によつて精神的苦痛を感じたことは〔証拠略〕に徴し明らかであるところその慰藉料として、前認定の本件事故の態様、過失割合、受傷の部位、程度その他諸般の事情を考慮して、金二五万円をもつて相当と認める。

更に、弁護士費用につき、〔証拠略〕によると、同原告は、被告方において一度同原告入院中見舞いに来たのみで、その賠償につき全然放置して顧みないため、訴訟代理人らに本訴の提起およびこれが追行を委任したことが認められるから、後記認容額その他弁論の全趣旨をあわせ考えて、その費用のうち、一万五、〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害として被告に対し請求し得べきものと認める。

以上の損害額から、同原告自陳のてん補額二八万三、三三〇円を控除すると、その数額は左のとおりとなる。

1 療養費 一二万三、三二五円

2 慰藉料 二五万円

3 弁護士費用 一万五、〇〇〇円

差引合計額 九万九、九九五円

(二)、原告会社の損害

1 原告阿部に支払つた給与額相当金

〔証拠略〕によれば、原告阿部は、原告会社の従業員として設計事務を担当していたが、本件事故により昭和四三年七月三一日から同年九月八日まで(四〇日間)欠勤し、その間の給与合計八万五、六八〇円を全額原告会社から受領していることが認められる。しかして、原告会社の右出捐は、弁論の全趣旨に徴し、労働基準法七六条(六〇パーセント)によるものと思われるところ、これを越える分については、直ちに本件事故と相当な因果関係あるものとはなし難く他に加害者たる被告に対して直接その支払を求める法的根拠についての主張立証がないから、右、支払われた給与の六〇パーセントたる五万二、四〇八円の限度においてのみ、民法四二二条の類推により被告に対して請求権を有するものと認める。

2 物損

〔証拠略〕によると、原告主張のとおりの被害車修繕費ならびに鑑定料を要したことが認められる。

3 過失相殺

右各損害額から、前に認定した過失割合に従いその五割を過失相殺によつて控除すると九万八、四七九円となる。

4 弁護士費用

原告会社が本訴提起を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、その弁護士費用として被告に賠償を求め得るものは、本件事案の内容等諸般の事情を考慮して、一万五、〇〇〇円をもつて相当と認める。

以上3 4の損害額合計一一万三、四七九円が原告会社の被告に対して請求し得る損害額である。

三、結論

よつて、被告は原告阿部に対し九万九、九九五円、原告会社に対し一一万三、四七九円とこれに対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四四年四月二六日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があるから、原告らの本訴請求を右の限度において認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中村行雄)

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